07.2

　5時に起床。雨の音がする。昨日の天気予報通り、結構ひどい降り方。下から声がかかり６時朝食。昨日の若者は、朝食を済ませると、あわただしく出発していった。こちらは、朝食後何かとすることが多い。家でも嫁さんからあきれられている。身支度を済ませ、下に下りて靴を履いていると、写真が飾ってあるのに気づく。よく見てみると、最近ＮＨＫで放送されたお遍路ドラマのシーンとロケ風景。女将さんに聞くと、この旅館がロケに使われたとのこと。よく見ると江口洋介やら風吹純の写真。この階段に江口洋介が座っているシーンを撮ったなどと説明してくれた。記念に写真に収める。ついでに女将さんも写真に撮らせていただく。お礼を言って７：１０出発。
　雨はかなりの本降り。しかし、ゴアテックスの靴・カッパにザックカバーと完全装備。こういう状況に対応する装備を身につけていることに快感を感じてしまうこの性格である。道は、国道５６号へ出る。ゴールデンウィークの谷間の平日のせいか、通勤の車がひっきりなしに通過していく。道の駅の軒先で地図で進路を確認する。国道は、車が水しぶきを上げながらかなりのスピードで通過していく。反対車線を自転車通学の中学生達が、カッパに身をつつみ走っていく。自分も中学生の時、自転車通学だった。雨や雪の時は結構辛いものがあった。送り出す親はどんな気持ちだろうか。がんばれ。
　国道は、なだらかに登りとなり、トンネルに入るが、歩道がない。車線を変えられなかったので、後ろから車が迫ってくる。ヘッドランプを出し、後ろを照らし、こちらの存在をアピールしながら歩く。それでもかなり怖い。もう一つトンネルを抜けたところから、下りとなる。今度は自転車の中学生は、必死にペダルを踏んで登ってくる。ガンバレ。３つ目のトンネルを過ぎたところで、国道に別れを告げ住宅街に入る。静かで良い。
　それから道は段々と登りとなり、山道に入る。前面には雲のかかった山が立ちはだかっている。目の前に山がそびえているとはと嫌な予感がすると、案の定、急激な登りが待ち構えていた。それも路面は、石が敷いてあるため、足元が滑る。鎖も用意されているが、バランスが悪いので、靴のグリップと杖しっかり付きながら登る。急勾配は延々と続く。息も絶え絶え、カッパの下はぐっしょり、堪らず足を止め、タバコを一服して、登り再開。杉木立の道に入るとほどなく焼坂峠到着。眼下を見下ろすと海が見えた。天気がよければいい景色だろう。峠は切通しとなっており、ガスが吹き抜けていく。
　ここからは下りで道も車が通れる幅があり、歩きやすい。それから山道に入り森の中を歩く。山の稜線をいくつも超える。誰にも会わない。昨日のことを思い出し、こういう所で襲われたらと、後ろを振り返ってしまう。女性はこういう所はやめたほうがいいかもしれない。延々と続く山道を行くと、雨も止んで来た。振り返ると、今越してきた山に霞がかかり新緑が薄日に輝いて美しい。なだらかな下り道が続き、道幅も広くなってくる。見るとあちこちにタラの木。誰も取りに来ないのか、芽は伸びきっている。もう２週間早ければ、摘んで宿で天ぷらにしてもらい、一杯などと考えてしまう。
　ほどなく車の音が聞こえてきて、国道に合流。それから人家も見え出し、国道から一般の道に入る。公民館らしき建物があったので、軒先を借りカッパを脱ぎ、ザックカバーをはずすと水が溜っており、ザックも濡れている。改めてザックを抱えてみると重量が増している。６年ぶりでカバーのかけ方を間違えたらしい。
　それから久礼の街に入る。昼食をどうしようかと思うがスーパーに入ってみると、助六があったのでバナナと小夏を買い、街中を抜け、川沿いにある東屋の休憩所で昼食とする。日も差してきて昨日と違い気持ちのいい昼食となる。昨日できたマメは大きくはなっていないが、結構足に来ている。しかし、今日の行程は３３キロ、残り２０キロもあるし、この先今日二つ目の峠がある。時間も昨日より、１時間遅い。
　そこそこで切り上げ出発。雨で濡れたザックが重く感じられる。山間の田園地帯を３０分ほど行くと、徐々に山が近づいてきて、道は突然右手の山の登り道に入る。さきほど見た山の高さを考えると、かなり登らなければならないだろう。午前登った焼坂峠以上の急傾斜に違いない。と、予想は的中。体力も心理的にも参った。峠の上を国道が走っているはずであるが、車の音はまったく聞こえない。九十九折の登りが延々と続く。行けども行けども終わらない。微かに車の音が聞こえてきた希望が沸いてくる。その車の音が大きくなってくるのを励みに登る。最後の手すり付きの階段を登ったところで峠の頂上に到着。７００ｍの距離で標高は８０ｍから２８７ｍまで駆け上がった。もうヘロヘロである。しかし、振り返ると遠くに高知湾が見え、眺めは最高である。青空も出てきた。景色を眺めながらしばし休憩。
　残り１５キロ。道はなだらかに下っていく。国道と付かず離れず平行に走っている農道の遍路道を歩く。結構な趣のある道だ。それから国道に合流するとこのまま岩本寺まで続いているはずである。次の目標にしていた休憩所で一服していると年配のお遍路さんが通っていったのに合わせ、腰を上げる。彼との距離を保ちながら歩く。彼が仁井田駅に入って休憩のようなので、そのまま通過していく。窪川の町が近づいたところで、地図で道を確認していると彼が追いついてきた。挨拶をして一緒に歩くことになる。年配と思っていたがまだ６０位。彼は今日千葉から飛行機で高知まで来て、久礼から歩き始め、ここまで休憩無しできたらしい。タフなおじさんである。聞くと彼も今回は同じ延光寺までらしく、４日間の宿はすべて予約しているらしい。少し不安になる。
　ほどなく窪川の街に入る。時間は５時を過ぎてしまい納経できないので、岩本寺の宿坊に泊まる彼と別れ直接宿に向かう。表通りから少し入った所にある「まるか旅館」に到着。民宿風の古い建物。女将さんは４０代くらいで若いが、さばさばとしている。２階の部屋へ通される。部屋は狭いが一人部屋でありがたい。早速風呂に入り、洗濯を済ませてから、雨で濡れたザックからすべての荷物を出すと、シュラフも濡れている。重くなったはずである。すべての衣類を干す。
　食事の声がかかり、食堂へ行くと、宿泊客は他にもいるようだが、テーブルに用意されていたのは自分の一人分だけ。メニューは鰹のタタキ、酢の物、魚の煮付け、筍、吸い物。昨日の柳屋旅館に比べてしまう。。ビールとお酒を注文し飲んでいると、おかずが無くなってしまいそうなので、加減しながら少しずつつまんで食べなければならない。何とかご飯のためのおかずを残すことができき、ご飯も２杯いただいた。
　朝食は、６：３０からとのことで、しょうがないのでそのとおりお願いする。部屋に戻るが、とにかく体が痛い。足のマメもかなり大きくなってきた。針を持ってきて良かった。
　今日、一緒に歩いた人がゴールデンウィークで宿の手配はしっかりしておいた方がいいとの言葉を思い出した。歩行距離を考えながら宿を選び電話するが、ことごとく満室。多少の無理は仕方がないと、片っ端から電話をして何とか明日から3日間の宿を確保することができた。それにしても、前回と違い距離を稼いでいる。初日に２２キロ、2日目の今日は３３キロ。体力がついたのかどうだか分からないが、とにかく4日目の昼までに130キロ先の延光寺まで行かなくてはならないのだ。９：１０就寝。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：３３ｋｍ）