07.1

　今回は、夜行列車で行くため、嫁さんにＪＲの鳥栖駅まで送ってもらう。ザックに菅笠、手には金剛杖のいでたちに、嫁さんは、恥ずかしくないのかと笑っている。今回は2回目だから平気である。改札まで送ってきてくれた。ホームに停車中のブルートレイン「なは」に乗り込み、２２：０７発車。車内は、2段式ベッドでガラガラに空いている。荷物を置き、ビールを片手に車窓を眺める。前回のお遍路が思い出される。今回はどんな四国となるのかワクワクしてくる。とにかく、あの青龍寺の入り口まで長い旅である。
　５：０１岡山到着。改札を出て、コンビニでサンドイッチと缶コーヒーを買い、朝食にする。待合所で日記をつけながら時間調整。四国方面のホームに行ってみると、まばらながら結構人がいる。お遍路姿も。７：０５発の特急「南風」に乗り、高知へ。ほどなく瀬戸大橋にかかる。前回と違い、今日は天気がいいので、景色も抜群である。それから坂出の煙突が見えてきて、四国上陸。四国山地を抜け、９：４７高知到着。
　バスセンターに行き、宇佐方面のバス乗り場を聞くと、次のバスまであと5分とのこと。昼食を買うのを断念し、急ぎバス停へ行く。5分遅れで宇佐行きのバス到着。高知市街地を抜け、郊外へ向かう。途中、お遍路さんも乗車してくる。さらに西へ向かうと、前回16日目に清滝寺まで歩いたときに渡った仁淀川。同じ橋を通過し、南下する。海が見えてきたところで、運転手さんが、青龍寺へいくのならスカイライン入り口で降りれば言いと親切に教えてくれる。

　１１：００スカイライン入り口で下車。二人のお遍路さんは、すでにお遍路装束なので早速宇佐大橋に向かっていかれた。自分もとザックから白衣、登山用靴下を身に付け、菅笠を冠りお遍路に変身。青龍寺の方へ一礼し、いざ出発。浦ノ内湾沿いの道を行く。6年ぶりの歩き、何だかフワフワとした感じがして、足が地に着いていないといった感じである。それでも、新調した靴も問題なく、歩きも軽快である。湾内には干潮の時間らしく、潮干狩りの行楽客で大賑わいである。道路沿いの駐車場はどこも満杯で、船着場からは船が次々と洲まで客をピストン輸送している。入漁料も含め結構な金になるだろう。
　食堂を探しながら歩くが見つからず、途中にあった店に入ってみるが今日はゴールデンウィークでオニギリはないらしく、仕方がないのでアンパン、黄金糖、缶コーヒーを買い、とりあえず空腹を満たす。更に湾内に沿った道を歩く。所々で潮干狩りの光景に出くわす。有明海も賑わっているだろう。先ほどの店から8キロのコンビニに到着。やっと昼ごはんを調達できるかと思ったが、ここにもオニギリ、ご飯類はなかった。腹にたまりそうな物はクロワッサンとゆで卵くらいで、ついでにおでんを買って佛坂目指して出発。ところが、杖を忘れているのに気づく。お遍路が杖を忘れるとは情けない。おでんの汁がこぼれないように袋をザックにくくりつけていたりして気をとられてしまったのだ。5分のロス。早く気が付いてよかった。　
　道は海から離れ、田園地帯に入る。田植えも済んでいる。山に向かっていくと、ハウスが多くなってくる。中には、花や観葉植物。かなりのハウスの数。結構収益を上げているのかもしれない。
　
　いよいよ車道から、遍路道に入り登りとなる。初日なのに前回と違いそれほどきつくない。それから再び車道に出たところで、軽自動車が道を塞いでいる。車の後ろに人がいる。女性二人と男。男は酔っ払っており、何かもめているようだが、会釈をしてやり過ごし歩いていくと、程なくｊ峠に差し掛かかる。そこで、後ろから咳払いの声。振り返ると男性の姿。先ほどの男だ。追ってこられたようで自然と足が速くなる。追いつかれまいと、かなりの速度で歩いていく。峠を越えたところから、舗装道路から、遍路道は脇にそれ、森の中に通じている。丁度いいと、遍路道を下っていくと、後ろから枯葉を踏む足音と声。あの男だ。振り返らずに、更にペースを上げる。タイミングよく道脇にお堂があった。お堂に行き、お参りをする振りをして道の方を伺っていると、男が通過しようとした所で、私の姿を見つけ、「いた。いた。あんたは足が速いな。」とこちらに後戻りしてきた。ゾッとして髪が逆立つのが分かった。彼もお堂の方へ来たので、さっとかわして遍路道に戻り歩き出すと、すぐに追いかけてきた。このまま後ろに付かれてはまずいと思い、立ち止まって彼を先に行かせようとするが、彼も立ち止まり先にどうぞと言う。更にどうぞと言うと、彼は歩きだし、どこから来たのかと言うので、「九州」と言うと、「九州。お遍路は・・・・」となにか言いながら坂を下りていく彼の腰に、赤い鞘に納まったナタを発見。再びゾッとした。このまま行くのは、何だかヤバイ気がして、たばこに火を点けしばらく時間を置くが、それでも進む気にはなれず、お堂まで戻り食事とする。もっと気分のいいところでと思っていたのに、暗い森の中での落ち着かない食事となった。
　しばらく時間は稼いだ。出発しようとも思うが、あの赤い鞘のナタが目に焼きついている。峠まで戻り車道を行こうかとも思うが、逃げるような気分で嫌である。いざとなったら金剛杖もあると、心の中で南無大師遍照金剛を唱えながら坂を下りる。すると建物が見え、視界が開ける。番外の岩不動に出た。彼の姿はない。境内に車も止まっており、お堂からは人の話し声も、少しほっとする。
　本堂、大使堂にお参りをし、休憩所で一服。本来ならここで昼食ができたのになどと思いながら、さらにタバコを一本吸って出発。それでも前後を用心しながら歩いていくと、田んぼが出てきて、人家も見えてきた。ほっとする。
　
　しかし、このままでは宿に着くのが、１７：００を過ぎてしまう。歩を速める。そろそろ太もも、足にもきだした。それでも懸命に歩く。須崎の街が見えてきた。宿まであと4～５キロ、足もかなり来ている。休憩所で一休みして歩き再開。街中に入り、番外の観音寺に参り、2キロ先の大善寺を目指すがこれが中々遠い。時間も１７：００を過ぎてしまった。なんだかあせってくる。国道56号から脇道に入り、住宅街を抜けたところで大善寺に到着。そのすぐ前が今日の宿「柳屋」。旅館の建物は古びているが、昔の造りで趣があり、感じのいい宿。中に入ると、外観どおりのいい感じである。誰もいないので、ごめんくださいと言うと奥から女性が現われる。上品な感じの女将さん。
　大善寺に参るため、荷物を預けて向かいの大善寺の山門をくぐる。岡の上にある本堂へ行き、お参り。すると納経所の扉が開き、本堂内に上がってお参りをしてもいいとのこと。靴を脱がなくてはならないので遠慮するも、若い坊さまがどうぞと言ってくれるので、こういう機会も中々ないと上がらせていただきお参りする。その間に納経帳を書いてくれる。なんとも親切な坊様だ。このお寺には宿坊もあるようで、こじんまりしているがなかなか立派なお寺である。
　
　宿に戻ると、２階の部屋に通される。荷物も運んでくれていた。部屋も古いが、いい感じの部屋で気に入った。風呂に入らせてもらう。途中から別の客も入ってきた。同じお遍路さん。３０代くらいで、感じのいい若者。彼は３日目で昨年の９月に続き、区切り打ちの続きらしい。いろいろと話をしてから、先に上がらせてもらい、洗濯を済ませる。食事の声がかかり、１階の広間で夕食。宿泊は彼と二人らしい。彼は風呂上りに既にビールを飲んだらしいので、今回も躊躇なくビールを注文。いろいろと話をしながらビールから酒に移る。今日の怖い思いをした話をすると、彼曰く最近は遍路を狙った物獲りが多いので、人里から離れる遍路道には行かず、国道を歩くようにしているとのこと。６年も経つと遍路を取り巻く状況も変わるのかと思ってしまった。９時になったところで、切り上げ部屋に戻り、日記を書き、嫁さんに無事を報告し２１：００就寝。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：２２．５ｋｍ）