第16日

　４：３０起床。前日作ってもらったオニギリを食べ、支度をして６：００チェックアウト。予約しておいてタクシーに乗り込み、竹林寺へ。運転手さんは、見かけはごついが、気のいい人だった。１０分で到着。
　山門まで行き、本堂に向かって手を合わせ、６：１５歩き開始。明日は、最終日で帰らなければならない。そのためには36番まで済ませておきたい。足取りはいつも以上に早足である。竹林寺から６．５キロ。７：２０、32番禅師峰寺到着。本堂へ行くと、ロウソク立てにまだ１本も立っていない。ロウソクの火で、線香を点ける。大きな線香立ての灰が平らに均されている。そこに最小に線香を立てさせてもらうのは、初めてで、気分のいいものである。3人分の線香を立てる。お参り、納経を済ませ出発。次の札所へ行くには高知湾を船で渡らなければならない。船の出向時間は９：１５。これを逃すと1時間待たなくてはならない。その渡し舟は1時間に、3回出ている。一つでも前の船に乗りたい。1時間30分で６．５キロの距離、急ごう。足は相変わらず痛いが、朝せいか快調に歩く。時速キロ位のスピードくらいで歩いていいるはずだ。32番の山を降りると、例のヒゲオヤジにまた会う。彼はまた女性連れで、別の人を待っている様子だった。道連れがいると言うのもいいのだが、気を待ったり待たされたり、気を遣うのがどうもという気がする。今回一緒に歩いた、古川、篠原、高岡さんは、気を遣わずそれぞれのペースで歩くことができた。なかなかああいう形は珍しいと思う。貴重な道連れだったと改めた思う。
　とにかく９：１５の船に間に合わなくてはならない。あせりも覚えながら歩く。港へまっすぐの道は、住宅街からだんだん倉庫へと港に近い雰囲気となってきて、予定より早く無事８：５５渡船場に到着。上を見上げると、大きな橋が架かっている。この橋が架かるまでは、この渡し舟が貴重な交通手段だったに違いなく、ここまでの道中も、寂れた感じがした。
　待合所に行ってみると、魚売りのおっちゃんが一人。待合所の横にリヤカーがあり、発泡スチロールの箱がいくつもあり、その中に魚が入っているようで、野菜も積んでいた。いろいろと話をされるが半分くらいしか聞き取れない。ただ、今年は雨が少ないせいで、いつもの半分くらいしか魚が売れないと言っているのは解った。雨と魚の売り上げがどう関係するのかわからないが、昔に比べさっぱり売れんと屈託のない顔でおっしゃる。今朝のタクシーの運転手同様、気持ちのいい土佐人という感じである。
　最近は歩き遍路が多くなって、この渡し舟に良く乗るようになった。今日も10人近く乗っていたとのこと。空がかなり怪しくなってきた。彼が、１１時くらいから雨が降ると断言される。このおじさんと話しているとなんだか和んでしまうから不思議である。そうこうしていると待合所も、混んできた。例のおじさんが地元の人たちとの会話を聞く、高知弁の会話はなんとも豪快で、聞いていて気持ちがいい。こういうのも歩き遍路ならではの楽しみである。
　おじさんの予想より早く雨が落ちだした。カッパを着る。船が到着する。乗務員もしばし待合所で休憩後、乗船開始で車、バイク、人の順番で乗船し、あっという間に完了。９：１５出発。船首、船尾とむき出しの箱型の小さな渡し舟。対岸にはあっという間に5分で到着。意外と賑やかな港町を抜け、ほどなく33番雪刑蹊寺到着。名前から何となくもっと落ち着いた水墨画のようなイメージを持っていたが、かなり古い感じのお寺である。金儲けに走っていないのかなどと、不謹慎なことを考えてしまう。お参りをして納経所へ、応対も非常に親切だった。
　一服してから、１０：００出発。西へ西へと一路種間寺を目指して歩く。山間の田舎の道をひたすら歩く。今日は何故だか足の調子もいい。種間寺まで６．５キロ。竹林寺からだと２０キロの距離。何としても清滝寺までという気持のせいか、お大師さんのご加護か。とにかくひたすら歩く。１１：１５、３４番種間寺到着。道路沿いに大きな駐車場があり、かなりの規模かと思っていたが、お寺自体はこじんまりとしていた。お参り納経を済ませ、駐車場脇のベンチで休憩していると、車で廻っているお遍路さんから声をかけられる。彼はこれまで歩きで５回廻っていらっしゃるとのことで、励ましていただく。雨もあがった。カッパも脱ぎ、出発。入れ違いにヒゲオヤジが到着。追いつかれた、さあ、がんばって歩こう。
　田園地帯を歩く、時折集落が現われる。水路は、勢いよく水が流れている。やがて、川の堤防道路に出る。結構大きな川、仁淀川という川である。水量もほどほど流れている。四国の川は、水無し川が多いというイメージがあったが、高知は水に恵まれているのだろうか。やがて、国道に出て、仁淀川にかかった橋を渡る。土佐高岡市に入る。それから旧道に入り、うどん屋さんで昼食とする。ゆっくりと休ませてもらい、１０分ほどで今日の宿「喜久屋旅館」到着。市街の道路に面した、昔ながらの旅館と言った感じ。中に入るが人の気配がないので呼んでみるも、返事がない。繰り返し呼んでみても返事がない。仕方がないので、ザックを置かせてもらい、ウェストバックにカッパを押し込み、身軽になって出発。空を見ると薄日がさしているものの、雨がぱらついている。しかし、さして気にならない。土佐高岡の街中を歩く、大きな町ではないが、落ち着いた街である。待の至るところに、水路が走っており、勢いよく澄んだ水が流れている。羨ましい限りである。途中、遍路標識が２つの別方向を指しているので、地図を見ていると、すぐ脇に散髪屋さんがあり、窓があいてご主人がご親切に道を教えてくれる。遍路の迷うスポットなのか。やがて人家も少なくなり、視野が開ける。田園地帯ではあるが、高速道路なのか大きな工事が行われており、遍路道がわかりにくい。しかし、目的地清滝寺は山の中にある。はるか遠方の山の中腹にそれらしき建物が見える。それを目標に歩く。建設中の高速道路をくぐり、山の麓まで来たところでチャーリーに再会。まさか会えるとは思っていなかった。彼は相変わらず野宿らしく、今日は、青龍寺までの途中で野宿の予定らしい。お互い元気と無事を言って別れる。いよいよ、清滝寺への登りが始まる。階段が現われ、はるか先まで続いている。ザックを背負っていないが、かなりきつかった。息があがっている。息を整え、お参りをして納経所へ、若い坊様から書いていただいた。境内に戻ると、よほど縁があるらしく、ヒゲオヤジ、挨拶をすると笑顔を返してくれた。展望台があり、結構いい眺めである。一服して、帰路につく。今日の目標であった清滝寺まで終えることができた。ザックのない身軽な体で軽快に帰路につく。
　喜久屋旅館に到着すると、女将さんが出迎えてくれ部屋へ案内してくれる。古くて、狭い部屋だが、居心地は悪くない。絵葉書を書いて、今日も1番風呂に入らせてもらい、洗濯を済ませる。６：３０夕食の声がかかり、上がり間の食堂で夕食。結構な人数分配膳されているが、一人で食事をいただく。今日も、ビールとお酒をいただく。四国に来るときは、禁酒するつもりでいたのが、結局2日目から毎日だった。何と意思の弱い自分が情けない。
　部屋に戻り、日記を書いていると他の宿泊者達が到着した様子。しかし、遍路ではなく工事関係者のようで賑やかというより、結構うるさい。多少気になるが、９：００に床に就き、そのままご就寝。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：３２．６ｋｍ）