第15日

　５：００起床。今朝はオニギリではなく、食堂で朝食をいただいた。出発の準備、トイレはここも様式なのでありがた。こんなことで嬉しくなってしまう。
　７：０５出発。昨日の大日寺の前まで戻ってから、道を反ると田園地帯に入る。物部川を渡る。物部とは古代の大豪族の名前。何か由来でもあるのかなど思いながら、土讃線の踏み切りを渡り、さらに田植えが終わった田園の中を歩いていると遠方に杜が見える。目的地の国分寺である。９：０５予定通り、29番国分寺到着。白塀で囲まれた境内は、森の中のお寺を思わせるくらい木が茂っているが、整然と整備されている。昨日、同宿のヒゲオヤジがいた、今日は女性遍路といっしょのようである。会釈をして、お参り、納経を済ませる。寺を出たところに仏具店風の店があるので除いてみると、88の札所の御朱印が記されている掛け軸が飾ってある。値札が付いており20万円とある。驚いた。これまで札所の納経所で、リュックに掛け軸を大量に抱えている人たちを目にした。普通の遍路ではないと思っていたが、恐らく、こういう形で商売をしている人たちなのだろう。88箇所の御朱印が記された掛け軸は、家の家宝となると言われるらしい。こんな形でそれを商売にしているとは、なんとも罰当たりな感じもするが、売っているということは買う人もいるからなのだろう。
　それから途中の郵便局で、現金をおろし切手も買って歩いていると、あのヒゲオヤジと女性連れの姿、彼らは県道のほうに行ったが、自分はこれまでどおり田園の遍路道を選び、たまたま近くにいたおばあさんに確認のため道を尋ねると、こっちは遠回りだから県道を行けとおっしゃる。こちらも地図にあるからと言っても、しきりに県道を行けとおっしゃる。こういう時は、人の言うことを聞けということかと考えていると、家の中から娘さんらしき女性が現れ、県道を行きなさいとおっしゃる。素直に従うことにする。すると、ヒゲオヤジ達に接待しようとしたが間に合わなかったところ、あなたが現れたと言って、200円とジュースのお接待をいただいた。納め札を渡すと、うやうやしく戴いてもらった。更に、おばあさんは家に戻り、栄養ドリンクを持ってきて追加のお接待までいただいた。それから、この先にお接待をしてくれる所や道順など、しつこいほど親切なおばあさんだった。お礼を申し上げ、歩き再開。先ほどの、郵便局まで後戻りし、県道を進む。途中、ローソンでオニギリを買い、だらだらと長い逢坂峠を越える。高知市郊外の幹線道路と見え、交通量もかなりのものである。ここは南国市で、昔の友達がいるはずである。彼の家は、南国市でも有数の企業で、彼は大学卒業後、銀行で働いていたが、恐らく家に戻り、専務か何かになっているだろう。久しぶりに会いたいとも思うが、こちらはお遍路の身である。途中で世間には戻ってはいけないような気がするので諦める。峠を越えてから、遍路道に入り、再度県道に合流。すでに高知市内に入っており、町らしくなってきた。県道から右に入ると山門があったので、そのまま行くとなんとも立派な神社で、土佐神社とある。これだけ立派と言うことは、山内家からも保護を受けていたに違いない。しかし、肝心のお寺はとあたりを見回すとお遍路さんの姿、なんと目的の札所は隣りにあり、参道も神社とお寺の共有となっており仲良く並んだ配置になっていた。１１：３０、３０番善楽寺到着。お参り、納経を済ませ、時間も１２：００なので、境内のベンチで昼食にする。天気も快晴で、気持ちがいい。隣りのベンチに別のお遍路さんが休憩に来た。聞くと、彼は今日が12日目とのこと。自分は15日目である。自分の方が、かなり若いのにと、なんだか恥ずかしい気分になる。そして、彼は足を引きずりながら出発していった。
　自分もと、気を取り直し出発。高知市郊外の道を行く。遠方に高知の町が見え、２０階くらいのビルもあるのには、意外な気がした。高知市民に怒られるかも。それから、幹線道路に出ると、路面電車が走っており、なんとも地方都市の風情である。そこから右に折れ、次第に山の方角に歩く、ちょうど小学生の下校時間のようで、大勢の子供たちに出くわす。一人で歩いていた小学生に挨拶をすると警戒しているようだったが、彼をカメラに収め、その映った映像を見せてやると驚いて、笑顔を見せてくれた。
　いよいよ次の札所のある五台山に向かって登りとなる。それでも神峰に比べれば楽なものだと一汗かいて到着。３１番、竹林寺である。かなり規模の大きいお寺で、森と相まって荘厳な感じがする。ここにきて絵葉書が底をつきかけていたが、土産屋さんもあり、無事絵葉書を確保できた。
　今日の宿は高知の市街地の中なので、山門前に待機しているタクシーに乗ってホテルまで行くことにする。運転手さんに、最終日の青龍寺から高知空港までの交通手段を聞くと、バスと電車とバスというふうにかなり面倒だから、自分が迎えに来るというので、料金が少し心配になったがお願いすることにする。
　ちょうど１５：００にホテルに到着し、チェックイン。ビジネスホテルだが、大浴場があるとのことで1番風呂に入らせてもらう。その後日記と絵葉書を書き、下のレストランに行き夕食。篠原さんなら、ここで高知の味を楽しみ行くところだろうなどとと思ってしまう。ここの夕食も、鰹のタタキ。毎日これだと普通の人は飽きるだろうが、大好きな私にとってはうれしい限りである。お酒もいただき、いい気分になったところで部屋にもどり、床に就く。
　
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：２１．６ｋｍ）