第12日

　５：００起床。外を見ると水平線に雲がかかっているので日の出はあきらめ、昨夜レストランで作ってもらったオニギリを食べ出発の準備。しかし、ふと外を見ると雲が晴れてきて見事なご来光。昨日よりも美しい、太平洋から昇る朝日をカメラに収めることができた。
　６：４０チェックアウト。すぐに室戸岬に到着。先端まで行ってみる。太平洋に突き出した岬、ここは台風の時はさぞすごいだろうと思いながら、写真に収め引き返すと、公園内にテントが張ってあり、傍らで外人さんが朝食をとっていた。日本語で「がんばれ」と励まされる。
　昨日までと違い、今日からは北向きに歩くことになる。整備された海岸道路、歩道も広く街路樹のもとを、歩くのは気持ちがいい。ほどなく、室戸の市街に入る。久しぶりに街中を歩くので、なんだか照れくさい。すれ違いざまに「こんにちは」と声をかけてくれる人もいる。
　街中を行っているはずなのに、港が現れる。海まで運河があるのか。不思議な風景である。有明海沿岸では見られない、風景を見ながら歩いていると、ほどなく25番津照寺到着。街中ではあるが、お寺は岡の上にあり、本堂は急な階段を登ったところにある。その階段を登り本堂に到着すると、古川さんがいた。昨日は、古川さんに誘われるままに最御崎寺のお参りを済ませたおいて良かった。
　今日の道中の安全をお願いし、階段を降りて大使堂にお参りしている間に、古川さんはいなくなっていた。納経を済ませ一服し、山門前でろうそくとバンドエイドを買い、先を急ぐ。街中の道を歩いていると、ふと魚屋発見。高知にはいってから「かつお」を探していたのだか、聞くとかつおを置いてあるという。まだ脂が乗ってないが、毎日入荷するので鮮度は抜群とのこと。1本2キロくらいで2,000円くらいとのこと。また、くじらの生があるらしい。この辺では、定置網にくじらがよくかかるらしい。1キロ6,000円とのこと。とれたての本物の生鯨はめったにお目にかかれない。奮発して購入。家族や友人に送ることにする。これで約束を果たせたのでほっとする。
　随分と時間を食ってしまった。国道に出て軽快に歩く。しばらく行くと海沿いの道に別れを告げ、山に向かって里の道に入る。けっこうな傾斜の道を行った所で、26番金剛頂寺到着。境内には古川さんがいた。息が上がっているが、そのまま本堂、大使堂とお参りを済ませ、納経所に行くと4人ほど先着者がいた。並んで待っていると、おばさん二人が同時に納経帳を出し、順番争い。どうなるものかと思っていたところ、納経所の人が、どちらが早く並んだのかを見ていたのか分からないが、一方の女性を指名し、一件落着。
　今度は、あと1人で自分の番になったところで、納経所の人が「先ほどお金だけを払って納経帳を忘れている」とおっしゃる。なんとも俺みたいなあわて者がいるものだ。どうも先ほど順番を争った一人のようである。すると並んでいるおば様が、「これも、いい思い出よね」とのたまう。忘れた本人は今頃、大変な慌てように違いないが、納経帳を忘れていくとは、なんとも。
　ほどなく自分の番になり、納経を済ませ、ベンチで一服していると、7日目に泊まった坂口屋で見かけた若い女性遍路が、到着。「こんにちは」と挨拶するが、声にならないような声で返事。何か思いつめているような厳しい顔つき。気にしない。
　すると、今度は階段から手ぬぐいを姉さんかぶりをしたオバサマ登場。昔、篠栗参りをしていたころ、女性はみなこういう感じだった。あの時のオフクロや同行したきれいなオバサン達を思い出した。このオバサマもきれいな方で、近づいてきたところで自分に「歩きですか」と声をかけていただく。はいと返事をすると「大変ね」とねぎらいの言葉をもらう。すると、先ほどの女性の1人遍路が横のベンチに来たので、「女性一人で大変でしょう」と声をかけたが、返事ともつかない返事。返事していないのかもしれない。返事しようがしまいがどうでもよろしい。自分は自分のスタイルである。
　出発しようと歩き出したところで、今度はまた先ほどの綺麗なオバサマが「大変でしょうけど、がんばってください」と励ましの言葉をもらった。こういうところにくれば「袖触れ合うも多少の縁」ではないが、こういうことでお互い、明るい気持ちになれるものである。気を良くして出発することができた。
　古川さんを追って歩くも途中で道が分からなくなってしまった。いったん戻り、別の道を行くと遍路標識。いつもこの標識に安心と励ましをもらう。海の見える小道を下っていくと国道が見えてきた。その手前の畑の脇で、古川さんと今日何度もすれ違った若者遍路が休憩していた。言葉を交わし、先に行く。国道脇で、名産なのか「ビワ」を売っていたので、購入。時間は12時だが、今日の行程からみて、もう少し行っておいたほうがよさそうなので、先のうどん屋を目標とする。それから2時間ほどで「十兵衛うどん」到着。肉うどんとご飯を食べる。
　１３：４０出発。多少食べ過ぎた。お腹が張って歩きづらい。それに今日はかなり暑く、日焼けで腕がかなり痛くなってきた。それから羽根の町まできたところで国道から、中山峠道に入る。登り始めたところで、おじさんが1人で階段の補修作業をされている。近づいていくと「ごくろうさん」と声をかけてもらう。腕には、あの「遍路道保存協力会」のワッペン。皆が歩きやすいように、こういった補修や草刈をしているとのこと。自分達遍路は、こういう人たちの力にも支えられて歩くことが出来るのである。ありがたいことである。お礼を言って、峠を登る、休憩なしで一気に頂上到着。
　道の傍らに腰を下ろし休憩していると、鈴の音が聞こえてきて、あの1人女性遍路登場。「おつかれさま」と声をかけると、鋭い目で一瞥して、過ぎていった。すぐさま歩き出すと追いつきそうなので、もう１本たばこを吸ってから出発。ところが、さっきのところが頂上と思っていたのに、もうひと登りあった。こういうのが一番応える。今日は３０キロあるのに、2度の山越えを経験。あと4キロのところまで来たが、かなりの消耗できつい。また休憩、その間にまた抜かれてしまった。さあ歩こう。ただ、ただ、歩くのみ。淡々と歩くのみ。そう自分に言い聞かせながらも、国道の1キロごとの標識が気になってしまう。
　１６：１５「ホテルなはり」到着。4階建てのなかなか立派なホテルである。チェックインして、部屋に荷物を下ろし、大浴場へ。露天風呂があり、立派な風呂。しかし、日焼けした腕がしみる。それでも、今日もがんばってくれた足をマッサージして、ゆっくりと風呂を満喫。今日は暑かったので、缶ビールを買って部屋に戻り、日記を書くが、結構時間がかかってしまい、気が付くと6時30分。夕食の開始時間を過ぎている。さっそく１階のレストランへ。客席は空いている。見ると地元客も結構来ているようだ。定食（1400円結構高い）と生ビールを注文。料理が出てくる前に、ビールがなくなってしまった。もう１杯注文。高知の女性はふっくらとした人が多いのか、ここのウェイトレスもオデブちゃんだが、あいそが良い。他の従業員もあいそが良い。いいレストランだ。
　食事も済み、切り上げようとしたところに古川さんと日本一周男黒川さん登場。酒をもう1本飲んでしまい、少し酔ってしまった。9時近くになったので頼んでおいた「おにぎり」を受け取り（しめて3,700円）、部屋にもどり、就寝。しかし、途中で背中がゾクゾクして、なんだか気持ち悪く寝られなかったが、そのうち寝入ってしまった。

　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：２９．２ｋｍ）