第１０日

　５：００起床。:５：３０から朝のお勤めの館内放送。なんでも経験、行ってみることにする。ここ鯖大師の施設は、本堂、大使堂、この宿坊のある遍路会館。そしてトンネルでつながった護摩堂（これが一番立派）があり、トンネルの中には八十八箇所のご本尊が順番に並んでおり、賽銭箱もありミニ八十八箇所を経験できるようになっている。そのトンネルを抜けると、大きなドーム状の護摩堂に通じている。中央に護摩壇があり、その周りを円形に取巻くように皆が座っていた。いよいよお経が始まる。般若心経は解るのだが、後は全く知らないお経が続く。護摩に火が点火され、不動明王の真言に変わる。屋内で護摩が焚かれるのを見るのは初めてだが、これがなかなか長い。足がしびれるほどであった。そして、住職のお説教。遍路はただお経を読むのではなく、しっかりと一生懸命お願いする気持ちで唱えなさいとのこと。
　お勤めもやっと終わり、質素な朝食をいただき、７：３０出発。4人の中で最初に出発したのだが、写真を撮りながら歩いていたせいで、3人に追いつかれ道端の公園でしばし休憩。これから本格的な歩きとなる。古川さんと前後しながら進んでいくと、空が怪しくなってきて、いよいよ雨が落ちだし本降りとなってきた。上下とも合羽を着る。初めての本格的な雨の歩きである。古川さんはポンチョ、あれは湿気がこもらず中々よさそうである。適当に休みをとるのだが、気温も低く寒くなるので今日の休憩は短め。海岸は岩場より砂浜が多く、サーファーが多く見られる。
　だんだん足が痛くなってきた。宍喰の町に入る。商店街も閑散としている。地方都市の商店街はどこも一緒で、シャッターがしまったままの店が多い。最盛期は結構賑わったであろう。商店街から、国道へ出て、駅を右手に更に進む。そろそろお昼、お腹が空いてきた。うどん屋があったがまだ半分も来ていない。古川さんと前後しながら昼食をどこでするのか迷うが、高知との県境前の水床トンネルの手前の喫茶店に入る。定食を食べる。古川さんの携帯が鳴って仕事の話をしている。いつもの顔とは違い厳しいものを感じる。日常に戻れば社長さんである。
　1時間ほどゆっくり休み、出発。発心の道場阿波に別れを告げ、修業の道場土佐に入った。海岸沿いの道と海から離れたりと国道の道が続く。古川さんはゆっくり行こうと言ったが、残り8キロ、早く宿に着きたい一心で自然と足が早くなる。途中、道端にみかんの販売所があり、オバちゃんがお遍路さんと自分のことを呼ぶので、お接待かと期待してしまう自分がいやである。おばちゃんはポンカンと小夏というみかんをお接待してくれるので、納め札を渡そうと探していると、処分するのがたいへんだからいらないとおっっしゃる。
　お接待は、八十八箇所を廻ることが出来なかった人たちが、弘法大師と同行二人で歩くお遍路さんにお接待をし、その御礼として受け取る納め札をもらい、その功徳をもらうという風習のようだが、その御札は大事に仏前などに置いておかなくてはならないらしく、このオバちゃんのように、素性のわからない人の御札をもらうのを遠慮する人もいるらしい。
　御礼を言って、歩き再開。足の痛みはかなりのものだが、ずんずん進む。時速５～６キロは出ているだろう。残り８キロを余裕を持ってではなく、休みもとらずしっかりと歩こう。古川さん、鯖大師の住職ではないが、苦しいながらしっかり歩かなくてはならない。
　東洋町には長い砂浜が続いている。ここはサーフィンに適した場所のようで、海の中にサーファーの姿が多く見られる。遠くから見ているとアザラシの群れのようにも見えてしまうからおかしい。その国道沿いには、サーファー相手の民宿やお店が見られ、地域経済にも少なからず貢献しているのだろう。さすがに、足の痛みがどうにもならず、たばこ休憩。しかし、休むと歩き出すときが大変で、格段とスピードが落ちる。それでもあと少し、前に進む。
　ほどなく、町が現れ、東洋大使の標識があり、国道から右に折れると、東洋大師に到着。昨日の鯖大師のイメージがあったので、もっと大きいかと思っていたがこじんまりとしたお寺である。誰もいない様子。お灯明と線香を上げ、お参りをする。すると、お坊さんが帰ってこられた。かなり若い坊様。向うから挨拶をしてくれるが、車から荷物を運んで忙しそうなので、納経せずに後にする。
　
　野根の街に入る。小さな町のようだが、昔ながらのなんだか落ち着いていて感じのいい町である。途中にお菓子屋らしき店があり「野根まんぢう」の看板。「まんじゅう」ではなく「まんぢう」というところが面白い。きっとこのあたりの名物なのだろう。１５分ほど進んだところで今日の宿「まるた屋」に到着。民家風の古いたたずまいの宿。中に入るとおばあさんが出迎えてくれ、早く着いて良かったとおっしゃる。杖を洗う桶水を出してくれたので、杖の汚れを洗い落とす。今回初めてのことである。中庭の横の部屋に案内してもらう。今日は個室である。風呂も沸いているとのことで１番風呂に入らせてもらう。今日も、つま先と足に堪えた。風呂がしみる。風呂から上がると古川さんが到着していた。洗濯機はないか尋ねると、洗濯してくれるとおっしゃる。ありがたい。しばらくして気付くと部屋の前の軒下に干してくれていた。ありがとうございます。
　１７：００に夕食の声がかかり。古川さん、昨日同宿の７３歳のおじさんと３人で夕食。結局今日もビールと酒となる。料理は、豪華ではないが、こころのこもったおいしいものだった。そこそこで切り上げ、日がまだ暮れていないので海岸に行ってみる。晴れていないせいか、さみしい砂浜の風景である。宿に戻り、毎日日課の絵葉書を書く。トイレに立つと、隣の古川さんの部屋も電気が消えた。９：３０就寝。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（歩行距離：２３．５ｋｍ）